+ 3 - どうしようもない羨望 +


「え、モエに?」
「うん」
 僕はこの前出会った女の子のことをルリに話した。彼女の特徴について話すと、彼女はほぼ百パーセントルリの双子の妹であるとわかった。
「どうだった?」
「どうだったって……ぶっきらぼうだったって。僕がルリの友達だって言ったら、どっか行っちゃって」
「そう……」
「何? 普段会ってないの?」
 ルリはそれには応えず、鼻歌を歌い始めた。
「その曲は?」
「お気に入りのメロディ。曲名は知らないけど、生まれた時からずっと頭の中に流れてるの。よかったら、今作ってる曲にこのメロディ入れてくれるかな?」
「わかった。メモするから、もう一度歌って」

 後日。
 僕はいつものように教室に入ると、既に席についていたアンドリューに呼ばれた。
「トニー、お前、モエに呼ばれてっぞ」
「……はぁ?」
 モエさん、来たんだ。
「とにかく、屋上に来いって……」
「何それこわっ!」
 サカリは身震いした。
「用件は?」
「聞いてない。俺ぜってーついて行かないから」
「オ、オレも! トニー、まぁ頑張れ」
「まったく二人とも……」

 屋上ではモエさんが空を見ながら突っ立っていた。
「来たわね、トニー」
「あれ、僕名乗ったっけ?」
「アンドリューから聞いたのよ! ルリと最近知り合ったって話、詳しく教えなさい」
 その時、逃げたじゃないか。
 前よりも、顔はちゃんと見える。確かにルリに似てないこともないけど、双子だということは言われないとわからない。
「そう。例えば、家のないカワイソーな子をかくまった、とか」
「やっぱり同居してないんだ」
「何か知ってるの?」
「知らないよ。ルリさんが言ってたことから推測したってだけ。大体知り合ったのこの前だし」
「そこがおかしいのよ」
「言ってる意味がわからないね」
 こちらも、つい強気に出てしまう。
 モエさんは、かなり必死そうだ。
 双子は別居しているとわかった。この人も自分の片割れのことをすごく心配しているのだろう。
「とにかく、別居してるなら一緒になった方がいいよ」
「何よ、何も知らないくせに!」
 そう言った彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
 どいて、と言って、彼女は屋上出入り口前に立っていた僕をはねのけた。その時の、
「あなたが羨ましい」
 という呟きを、僕は聞き逃さなかった。

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