+ 2 - 裏側の彼女 +


 翌日、僕はルリと町のカフェで待ち合わせし、さっそく話し合いをはじめた。
 僕的には学校のカフェテリアの方が楽なんだけど、ルリはここじゃないとイメージが湧かないらしい。
「で、どんな曲を作ればいいの?」
「あなたが一番良いと思ったメロディを使った曲」
「あのねぇ……例えば、誰に向けて、とか」
「ん……妹」
「妹? 歳はどのくらい離れてる?」
「双子だから同じ歳」
 ルリは本当に必要最低限のことしか言わなかった。僕はそれを片っ端からノートに書き留めた。
 妹との関係を訊いてみたら、彼女は黙った。必死そうだったから気になる……というか、妹についての情報がないと作曲もできない。
 やっぱりここは、元気づけるような曲だろうか。

「ルリちゃん?」
 僕の友達二人にルリについて訊いてみると、そのうちの一人アンドリューが反応した。
「知ってるのか?」
「知ってるっつーか、中等部にはいた。同じクラスにはなったことなかったけど、めっちゃ可愛かったな」
 中等部にはいたということは、高等部にはいないということか。
 可愛いという言葉に、もう一人の友達サカリも反応した。
「えっとさ、その子双子だったりしない?」
「あー、そうそう。モエっていうんだけどさ、ルリちゃんとまじで双子なんかってくらい暗いわけよ。やばいわあれは」
 アンドリューは急に表情を曇らせた。
「そんなに……?」
「変な双子だな」
「ルリちゃん知らなくても、見てみればわかる。高等部でも見たけど、最近来てないっぽいし……」

 路上で鼻歌を歌ってみて、いいと思ったらノートに書く。こんなことをしているから、今日も帰宅が遅れる。
 アンドリューには、さすがにルリとモエさんの住んでいるところを訊くことはできなかったが、どうやら地元の人間らしい。つまり、学校に来ていなくても、歩いていれば会えるかもしれない、ということだ。
 このあたりは若者の町……というか、正直学生しかいないんじゃないかって感じだから、寮や下宿から少し離れた住宅地が狙い目だ。
 こんなこと考えてたら、なんかストーカーみたいだけど……。

 僕がまた新しいメロディ――そんなにいいもんでもなかったけど――を書いている時に、“彼女”は現れた。
「モエ! どこに行くの? もうご飯よ!」
「……ココア買う。切らしてるんでしょ? ちゃんと買っといて」
 豪邸の2階の窓から顔を出す、母親らしき人の声に僕は反応した。その声に返事をしたのは、家からほとんど出たことがなさそうな女の子だった。
 濃く長い紫色の前髪から、生気のない瞳が見てとれる。
 でも、きめ細かい肌は同じ。この人はルリの妹だ。僕はすぐにわかった。
 母親が、仕方ないといった様子で窓を閉めると、僕はタイミングを見計らってモエさんに話しかけた。
「あのっ、モエさん!」
「……誰?」
「えっと、あの、僕ルリちゃんの友達、で……友達になったのこの前だけど」
「は?」
「えっ」
「バカみたい」
 そう言って、彼女はスーパーマーケットに向かって走って行った。

 ファーストコンタクト、失敗。

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