冬の弱い太陽が、喫茶店の奥までゆったりと照らす。
私と先生は、この喫茶店でいちばん人気と云われる紅茶を注文した。
「私はイギリスに行っていたことがあるんだけどね」
先生は、突然話しはじめた。
「はじめは、まず食べ物が美味いと思ったね。しばらくしたら慣れたけど。……でも紅茶を楽しむ文化は、はじめからいいと思ったね」
「紅茶を楽しむ文化、ですか」
「そうそう。三食には必ずついてくるし、朝起きた時や休憩の時も飲む」
うげ。と私は心の中でつぶやいた。
私はとにかく飽きっぽい。イギリスの人は一日に四回以上も紅茶を飲むのか? 皆が皆じゃないだろうけど。
「ここに来て言うのもなんですけど、私、紅茶苦手なんですよ」
「なんで?」
「味は好きなんですよ。でも、色が。大体の紅茶が、深い紅色じゃないですか。それが、なんていうか、気持ち悪く感じるんです。すいこまれそうで」
「じゃあ、それを絵にしなさい」
先生はいつもそう言う。私が物事に対してネガティブなことを言うと。
先生の手にかかれば、全てが絵になるのだ。
ひょっとしたら、私はその言葉を聞きたくて、紅茶を注文したのかもしれない。
しばらく話しこんで、先生はトイレに行くと言った。
私はペーパーナプキンと楊枝をとった。それを絵にしなさい、と言われると、私の心にたちまち火がつくのだ。さて、今日はどうかな、紅茶よりも紅い火かな。
先生はすぐに戻ってきた。
「先生、どうですか、これ」
私は、ペーパーナプキンに楊枝で描いた、ふわふわしているけど奥深いものに吸い込まれていく女の人の絵を見せた。
091215